崩れた偶像に囚われる必要はない

 岡田准一さんの結婚発表を受けて信仰の危機を感じている方の記事を読みました。

 

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 これを読んで「あ~とても身に覚えがある……」と苦い思い出を呼び覚まされた者の一人として、もうほとぼりもさめた頃だと思いますので神谷浩史さん既婚子持ち発覚後の心境について書きます。

 

 

 神谷浩史という声優さんは元々声優がいまほど持て囃されていないころに声優になった方で、本人はアイドル的な扱いが性に合わないということを度々こぼしておられました。

 実際客観的に容姿を評価したら、まぁ普通です。表に出るお仕事が増えてからはご本人とスタッフさんの努力の甲斐あって爽やかな印象になりましたが、昔の写真を拝見すると端的に言ってモサいです。

 しかし声優さん、特に男性声優さんのファンというのは第一にその声を魅力に感じているわけで、容姿はわりと二の次なのです。容姿で声優さんの人気が決まるなら梅原祐一郎さんが天下をとっていなければおかしい。彼は彼でもちろんちゃんとファンがいますが。

 神谷さんは声が良く、演技も上手く(貶す意見も良く見ますがそういう人は大抵渋くて低い声以外全部貶す)、アイドル的仕事に葛藤しながらも前向きに取り組み、「あれは歌ひろしだから(自分とは別人格)」と言いながらコンサートではウィンクをとばし、ファンの皆さんを大切にしますという姿勢で次々ファンを獲得していました。

 

 さて、昨今の若手男性声優さんは、最初からアイドル系のお仕事を前提としているので容姿がある程度整っている方が多く(それでも女性声優さんに比べればまだ声重視)、ファンの方も当たり前のようにアイドル視することができますが、神谷さん世代の声優さんのファンというのは、本人の愚痴も聞いていることですし声優さんをアイドル視することにわりと引け目を感じています。少なくとも私はそうでした。

 神谷さんをアイドル的に見るのは悪いな、本人が嫌なら無理してやらなくてもいいよ、でもやってくれたら嬉しいしCDは買う。そういうふうに思っていたファンが多かったです。気が進まなくても努力してスキルアップし素敵なものを見せようとしてくれる神谷さんに感謝していました。

 だから神谷さんが普通に、「俺結婚します」「実は言いそびれてたけど結婚してました」と言ったら、ショックを受ける人はいたでしょうけど、ちゃんと祝福されていたと思います。

 私の場合は彼に向けるのは恋愛感情ではなく「なんかこの人滅茶苦茶好き! この人のすることだったら大体許せる! 幸せに生きて欲しい!」という自己完結型の愛だったのでなおさらです。

 

 だから、既婚しかも子持ちということが週刊誌で暴露された時、悲しかったのは結婚していたことではなく、この人はファンを全然信用してないんだな、ということでした。

 基本的に女性ファンというのは相当盲目です。ちょっとオタク界隈に詳しい方なら宮野真守さんの結婚発表に発狂した女性ファンが暴言連発、というエピソードはご存じだと思いますが、宮野さんの現在の人気ぶりをご覧になれば、結婚ぐらいならファンは辞めないという人のほうが多数派ということはおわかりになるでしょう。しかも、実は『女性ファンが発狂』ということにしたい輩がわざと書き込んだという話も目にしました(その方は2chのidが載ったスクショを提示していましたがツイートをファボしそこねて引用できません。すみません)。

 

 その後の男性声優さんの結婚発表も無事祝われ、人気が急激に落ち込むことはありませんでした。

  だから私は神谷さんが自分のファンの好意を全然信じていないのでは、と思ってとても悲しくなりました。

 とはいえ、神谷さんがプライベートは明かさない主義である、とか、事務所に止められていた、とか色々理由は考えられます。

 なので衝撃を抱えてぼんやりしながらご本人の発言を待ちました。

 そうしましたら発覚後初のラジオで曖昧に濁したなんともすっきりしない弁明をされまして、結局結婚していることは明言しませんでした。 

 えぇ―……。

 もうなんか凄くがっくりきたんですよね。

 散々誠実さを強調してきた人なんですよ。他者に厳しいけど自分にも厳しいと思ってたんですよ。きっちりけじめつけてくれると期待してたんですよ。あぁいうごまかしかたしてほしくなかったな……。

 

 

 で、これだけならともかく、急激に失望感に浸食される中で、はっと思い出したんです。

 ちょっと前に彼が言った言葉を。

 

「疲れてた時にまーやちゃんパンツ見せてくんない?って言ったら、いいですよーって言われて吃驚した。いい子だよね」

 

 これわりと聴いた当時もどんびきしたんですけど、彼の非モテ童貞芸はいつものことですしそれが行き過ぎただけなのかとスルーしてました。ほらなんせアイドル視してたから。盲目だから。

 まーやちゃんというのは綺麗な女性声優さんで清楚な見た目なのにちょっとえっちなイメージがある(あくまでイメージです)珍しいタイプの方で、わりとそういうものを求められがちというかセクハラ慣れしてそうなので、うまくあしらったのかもしれないし本気でそのぐらいいいと思っていたのかもしれない。

 でもそういう問題じゃないですよね。

 ただでさえセクハラなのに大ベテランの先輩が年下の若い後輩にそういうこと言います? 権威勾配が尋常じゃないですよ。冗談でも駄目です。

 

 これがね、独身なら、独身気分なんだろうと。つまり女性のことを我が身に置き換えて考えられないのだろうと思えなくもない。

 でも逆算したら明らかにこの時もう娘さんいたんです。

 娘ができたら痴漢やセクハラが身近になったという男性は結構います。つまり、自分の娘が被害にあったら耐えられない、なるほどどの女性に対しても気をつけなければ、痴漢セクハラ絶許、となるわけです。

 まぁ娘がいても痴漢する人いますけどね。でもそういう人はもう理解の範疇外。倫理観がぶっ壊れてるとしか思えない。

 そういう嫌悪感を、私はアイドル視していた人に抱いてしまった。

 凄く辛くて、しばらく鬱々としてました。

 結婚してるとか子持ちとかどうでもいいからせめて信頼できる人であって欲しかったです。

 それまで少しずつ溜まっていた彼への嫌悪感をそれが彼の非モテ童貞芸の一つであると思うことで抑えつけていたのに、娘さんがいたということで全く擁護のしようがなくなり、私はこの人の人間性を見誤っていたんだなぁということを悟ってしまったときの虚脱感たるや。

 

 岡田さんファンの彼女もそうなんだと思います。岡田さんと宮崎さんの不倫は、全く興味がない私の耳にも入ってきた程度には報道されていました。でも彼女は不安に思いつつも「いや週刊誌は色々口さがないことを書くものだし、岡田くんは誠実な人だから大丈夫」と自分を納得させてきたわけです。それが結婚したことで「えっやっぱりあの時つきあってたの!?」と押し込めていた嫌悪感が一気に噴き出してしまった。そりゃキツいですよ。

 

 こっちが勝手に幻想を抱いたと言われたらそれまでですけど、でも『誠実です』という姿勢を見せてくる人を誠実だと思うのは普通でしょ……。『誠実であれ』と言われれば、この人は誠実であろうとしているのだと思ってしまいます。

 その誠実さも含めて好きだったんです。尊敬できる人だと思ってたんです。それ以外の好きだった部分にまだときめいたとしても、幻滅した部分への嫌悪感が邪魔して前のように素直に好きと言えない。

 

 でも仕方ないです。所詮我等のアイドルは表向きの誠実さすら貫けぬ程度の器だったのです。好きの気持ちがなくなるのは裏切りではありません。そしてかつて好きだったことも間違いではありません。少なくともその時のあなたのアイドルは『誠実な偶像』だったのだから。

 ただ今は、見ると辛くなるものからは離れるべきです。

 ほかの楽しいこと、癒されることをみつけて気を紛らわせましょう。

 大丈夫、いずれ楽になります。

 稀に壊れてしまった偶像を思い返しても胸が痛まなくなる日が、きっと訪れます。

  あなたが愛した偶像の倫理観を大切にしてください。